代表取締役の独断専行によりなされた粉飾決算を看過した取締役らの監視義務違反が肯定されたケース

事実関係

バルブメーカーであるA社は、代表取締役であるY1が発行部数株式総数の約74%を保有し、その余はY1の一族が保有するいわゆる「同族企業」でした。
Y1は17期にわたり損益計算書、貸借対照表および利益処分計算書につき大幅な粉飾を施して架空の利益を計上した上で作成し、取締役会の決議を経ずに各期の定時株主総会に提出していました。
Y1は、各期のA社の定時株主総会において前記計算書類などの承認を得た上で、配当可能利益がないにもかかわらず利益配当、役員賞与金を支払うとともに、利益を超える繰越損失があったため納付する義務のなかった法人税などを支払い、さらに取締役会の承認を得ずに同社の取締役・監査役らに対して貸付けも行ってきました。
17期の決算期を通したこれらの支出の合計額は約49憶円にも上り、これによりA社は資金繰りに窮し約600憶円の負債を抱えて倒産し更生手続開始の決定を受けました。更生会社となったA社の管財人によるY1および同社の取締役であったY2らに対する損害賠償請求権の査定が申し立てられ、商法旧266条ノ3第1項の責任が審理されました。

判旨

裁判所は、Y1について、取締役会の決議を経ずに株主総会を招集し、配当可能利益がない状況で利益配当に関する議案を定時株主総会に提案したことは法令違反であるとして、その責任を肯定しました。
また、Y2ら平取締役については、以下のように述べた上で、Y1の違法な業務執行を認識し得たのに看過し是正手段をとらなかったとして監視義務違反を認め、その責任を肯定しました。
「代表権のない平取締役は、取締役会の構成員として、前記のように代表取締役の業務執行一般を監視する義務があるから、まず取締役会に出席し、必要とあれば取締役会の招集を求め、会社の営業及び財務の状態につき、その報告を求めて情報を把握し、場合によっては、会社の業務、財務を調査する権限をも有するものであって、会社の営業及び財務について相当な疑念をさしはさむべき事項が存在するときには、これを確認し、チェックする義務を負うものというべきであり、このことは、取締役間に業務分担の定めがあったり、取締役が商業使用人たる地位を兼ねていたからといって異なるものではなく、また法は名目だけの取締役に席を与えてはいないものとみるべきであるから、名目的な取締役であるからといって、直ちに右義務を免れるものということはできない。」

Y2らの監視義務違反が肯定されたポイント

A社は、発行済株式の大半をY1が保有し、その余をY1の一族が保有する「同族会社」でした。Y2らは、A社においてY1の独断専行で経営が行われており決算書類の正確性と完全性が確保される合理的な体制が十分に機能していないことを充分承知しながら取締役に就任しました。
Y2らは、このようなA社の体制を承知しながら、Y1の業務執行について何らの監視監督の手段も講ずることなく、業務執行を任せきりにして漫然と取締役の地位にとどまっていました。
以上のことから、裁判所は、平取締役のY2らの監視義務違反を肯定しました。

コメント

本判決は、同族企業が経営者の独断専行や公私混同に陥りやすいという一般論を示した上で、監視義務違反を問われた場合の取締役の個別の事情による反論の余地を認めなかった点に特徴があります。
本判決と同時期の裁判例には、個々の取締役の地位などに鑑み、個別の事情を斟酌した上で監視義務違反が否定されたものも散見されます。
しかし、本件は被告取締役らを構成員とした同族企業の事案であったこと、また違法になされた利益配当などが同族の取締役らの手に渡ったことから、免責の可能性すら考慮されなかったのでしょう。

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ネクスパート法律事務所