常勤取締役に対する非常勤取締役の監視義務違反が否定されたケース

事実関係

X社は大手製鉄会社であるA社を主取引先とする商社であり、B社は各種合成樹脂製品およびゴム製品の製造販売を主たる事業とする株式会社です。Y1はB社の非常勤の代表取締役で、Y2はB社内で唯一の常勤取締役でした。

X社はB社との間で、B社が製造する製鉄用耐熱性合成樹脂板(本件商品)をA社に独占的に代理して納入する販売委任代理契約を締結しました。

この契約のもと、X社はB社から本件商品を買い入れる代金額と、本件商品をA社に売却する際の代金との差額を継続的な収益として得ていました。

X社はこの収益構造が維持できると考えB社に資金調達の便宜を与える意味で前渡金を支払っていました。

ところが、B社は投資の失敗と多額の債務により経営が行き詰ったため、Y2は旧知の者が実権を掌握しているC社に援助を求めました。

C社は、B社の援助のために同社と取引をはじめ、これに伴い1,500万円におよぶ前渡金が支払われることとなり、C社の取引先であるD社から手形によって当該前渡金が交付されました。

しかし、このC社との取引も不成功に終わり、B社はC社から前渡金の返還を強く迫られることとなりました。

Y2は、C社が返還を求めた前渡金のうち1,000万円の担保に充てるため、独断でB社が所有し同社の主たる財産である工場備え付けの機械(本件機械)をC社に譲渡する旨の契約を締結しました。

他方で、Y1はY2に諮ることなく同社の営業とは関係ない土地の投機取引を行い、その代金支払いのためにB社名義の約束手形を振り出していました。

ところが、取引上の紛議が発生して、Y1がこの手形の支払を拒絶したため不渡りとなり、B社は倒産しました。この結果、X社が支払った前渡金のうち1,000万円が回収不能となりました。

X社は、未回収となった前渡金相当額の損害を被ったとして、Y1およびY2に対し、商法旧266条ノ3に基づき損害賠償請求の訴えを提起しました。

判旨

裁判所は、Y1について、Y2に対する監視義務違反を否定しましたが、土地の投機取引を行いB社の倒産を招いたことにつき責任を肯定しました。

Y2については、本件機械を債務の担保として提供したことは、多額の債権を有しているC社からの強硬な差入要求を受けたためやむを得なかったものとして責任を否定しました。

Y1の監視義務違反が否定されたポイント

本件機械のC社への譲渡はY2の独断で行われ、Y1には一切知らされませんでした。

このことから、裁判所は、「Y1は、B社の代表取締役として、唯一の常勤取締役として業務の執行に当たっていたY2に対する監視義務を怠った事実は窮し難い」として、監視義務違反を否定しました。

コメント

裁判の中で、X社は、Y1はY2の職務行為を監視する義務を怠り、かつB社の代表者印の保管義務に違反しY2がほしいままに同印鑑を使用できるように放置しました。

これが原因でY2による本件機械のC社への譲渡が行われ、債権者であるX社の権利が侵害されたとして、監視義務違反を主張しました。

これに対して裁判所は、本件機械の譲渡がY2の独断で行われY1には知る由がなかったことを指摘して、Xが主張する監視義務違反を否定しました。

もっとも、裁判所は土地の投機取引を行いB社の倒産を招いたことにつき、Y1の責任を肯定しています。

この記事を書いた人

ネクスパート法律事務所