ワンマン経営を行う代表取締役の職務に対する、取締役および代表取締役の監視義務違反について、第三者に対する損害賠償責任が肯定されたケース

事実関係

A社は、プラスチック製品等の製造販売を業とする株式会社であり、代表取締役Bのいわゆる「ワンマン経営」の会社でした。A社は、昭和42年の新工場建設で投下資本に見合う成果が得られず、昭和43年にはBの弟が経営する会社の債務の引受けや、Cが経営するD社の吸収に伴う債務の引受けにより、資金繰りに苦しむようになりました。Bに懇願されて、昭和43年11月2日、Y1はA社の代表取締役、Y2は同社の取締役に就任しました。Y1・Y2はA社から役員報酬を受けたことはありませんでした。
両名はA社の本店のある市の資産家で、同社の主要取引金融機関においてY1は監事、Y2は理事を務めていました。両名の取締役就任後も、A社の経営はBによって行われ、BはY1・Y2にA社の経営実態をできるだけ知られないよう虚偽の貸借対照表を提示するなどしました。
A社は、昭和43年末には、金融機関からの追加融資を期待できない状態であり、翌年1月以降は毎月600万円を超える資金不足の状況でした。A社は、この資金不足への主な対応として、①融通手形の交換による手形割引、②A社振出しの約束手形をCに交付し、Cがこれを金融機関で割り引いてもらう、③Y1・Y2からの借入れ、といった三つの方法をとっていました。昭和44年7月、A社は倒産しました。
Xらは、A社振出しの支払不能となった複数の約束手形につき割引きを行った者です。これらの手形のほとんどは、上記②の方法で資金を調達するために振り出されたものであり、CがXらに対し、A社からD社が受け取った商業手形であると偽って割引きを受けたものでした。
Xらは、Y1・Y2に対し、商法旧266条ノ3第1項に基づき、損害賠償を求める訴えを提起しました。

判旨

裁判所は、Y1・Y2は重大な過失による任務懈怠により、Xらに損害を与えたとして、その責任を肯定しました。

Y1・Y2の監視義務違反が肯定されたポイント

A社の取締役就任以前、Y1はA社の取引銀行の監事、Y2は理事であったことから、両名には経理の知識経験がありました。両名は、BがA社の増資払込金としてY1・Y2から交付された金額全体を実際には増資を行わずにA社の運転資金に流用していたことを昭和44年2月頃には知るに至り、A社倒産までにY1は1,700万円、Y2は1,500万円を同社に貸し付けるなど、A社の財務状態が悪化していることを知っていました。
さらに、昭和44年2月10日の取締役会で、経理担当職員による資金事情の説明および資金調達計画の協議がなされたことから、Y1・Y2は、同月中には、A社の資金繰りが非常に悪化していることに気づいていました。
こうした状況にもかかわらず、Y1・Y2は、BにA社の経営をすべて任せ、取締役会に提出された資料以外の帳簿等の書類を閲覧検討するなど、経理状況を正確に把握するための努力を一切しませんでした。
また、CをしてA社振出しの約束手形を金融機関に割り引かせる資金調達方法について、昭和44年2月10日以降の取締役会でその都度検討されたにもかかわらず、看過しました。
さらに、Y2は、A社の代表社印および手形帳等を保管するようになった昭和44年6月4日頃以降においても、経理担当職員の求めるまま手形の振出しを了承を、Y1もこれを止めようとせず、Y2に任せきりにしていました。
以上のことから、裁判所は、Y1・Y2の監視義務違反を肯定しました。

コメント

本件は、いわゆる「ワンマン経営」を行う代表取締役の職務に対する取締役および代表取締役の監視義務違反が問われた事例です。Y1・Y2ともに、Bから懇願されて取締役に就任し、A社から役員報酬を受けていませんでした。本判決は、もともとBがYらを取締役として迎え入れたのはYらから資金を引き出すためであったと認定しています。
しかしながら、裁判所は、これらの諸事実はYらの責任を軽減する要素に当たるとは考えていないようです。

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ネクスパート法律事務所