会社の経営を放任し他の代表取締役に対する監視義務を怠ったとして代表取締役の第三者に対する損害賠償責任が肯定され、名目的取締役の責任は否定されたケース

事実関係

A社は、商業帳簿類および財務書類等の作成を目的として、昭和45年2月に設立された会社であり、出資者は代表取締役Bのみでした。

Bの叔父にあたるY1は、Bの実父が開業していた税理士事務所でその責任者の一人として働いていた者であり、企業診断士の資格を有し、A社の業務遂行上有益な人材であることから、同社設立と同時に、Bとともに代表取締役に就任しました。

A社の業務執行はもっぱらBのみが行い、Y1は計算機の操作、計算事務その他の事務に専従し、従業員程度の給料の支払いを受けていました。

Y2は、Bの実母であり、Bの求めに応じてA社設立のためにのみ取締役としての名義の使用を承諾し、A社の取締役に就任しました。

Y2は、A社への出資もなく、A社において電子計算機を購入した際にBへ資金を供与した程度で、そのほかA社の業務には関与しませんでした。

A社では、株主総会、取締役会が開催されたことはなく、Y2はA社から報酬等を一切受けていませんでした。

A社と取引関係があったX1社およびその代表取締役X2は、Bから不動産投資等の資金の借用を懇願されました。

その結果、昭和47年3月から同年6月までの間に、合計1,900万円をBに貸し付け、その連帯保証債務の履行を担保するため、A社はXらに対し本件小切手を振り出しました。

A社は、昭和46年暮れ頃から、従業員の給料の支払いを遅滞するような状態に陥り、昭和48年5月に二度目の不渡りを出して倒産しました。

A社は設立以来、従業員の給料等を支払えばほとんど利益が残らない状態で、倒産するまで、取引高が飛躍的に増大したこともなく、業務上必要な器具等のほかに資産もない状態でした。

Xらは、Y1・Y2に対しては商法旧266条ノ3第1項に基づき、Bの弟であるA社の監査役に対しては商法旧280条に基づき、損害賠償を求める訴えを提起しました。

判旨

裁判所は、Y1について、重大な過失により代表取締役としての任務を懈怠したとして、損害賠償責任を肯定しました。

他方で、Y2については、取締役としての任務懈怠につき故意又は重大な過失があったとは認められないとして、その責任を否定しました。

また、監査役についても、悪意又は重大な過失による任務懈怠はないとして責任を否定しました。

Y1の監視義務違反が肯定されたポイント

Y1は、企業診断士の資格を持ち、企業経営の専門的知識を有していました。本件小切手を振り出した時点で、A社は取引高や資産の増大がなく、従業員の給料の支払いも遅滞するような状態でした。

上記のような専門的知識を有するY1は、借入れを連帯保証するために振り出した本件小切手が、A社の支払能力を超えていることを知ることができたといえます。

それにもかかわらず、Y1は、会社の業務執行を他の代表取締役であるBに任せきりにして放置していました。

以上のことから、裁判所は、Y1の監視義務違反を肯定しました。

Y2の責任が否定されたポイント

Y2は、Bの実母であり、A社設立のために取締役としての名義使用を承諾したにすぎませんでした。Y2は、A社に出資しておらず、A社の業務に関与したこともなく、また、報酬も一切受けていませんでした。

以上のことから、裁判所は、Y2が取締役の職務を怠ったことは否定できないとしつつ、「……Y2はA社設立のための全く名目的な取締役であったのみならず、A社とのかかわりの状態からみて、A社においてはY2に取締役としての……権限の行使を期待することがはなはだ困難な状態にあったものというべき」として、その責任を否定しました。

コメント

本件では、代表取締役の地位にあったY1、名目的取締役であったY2の、他の代表取締役Bの業務執行に対する監視義務違反が問われました。

裁判所はY1・Y2の具体的事情を考慮した上で、Y1の責任を肯定し、Y2の責任を否定しました。

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ネクスパート法律事務所