取締役に会社の経営を放任していた代表取締役について、商法旧266条ノ3に基づき第三者に対する損害賠償責任が肯定されたケース

事実関係

Y1は、昭和45年8月、靴卸商を業とするA社を設立し、妻の父で資力も信用力もあるY2を代表取締役に迎え、自らはA社の取締役に就任しました。A社は、資本金100万円、従業員数名の小規模な会社で、Y1が、A社の営業全般を実質的に取り仕切っていました。
A社の経営は、開業後約1年間に累計700万円程度の赤字、昭和47年に年間500万円程度、昭和48年前半に500~600万円程度の欠損を出す状態でした。昭和48年の初め頃には、人件費の支払いにも窮するようになりましたが、人件費や手形決済資金をY2やY1の母親等からの借入れで補充し、A社はかろうじて営業を続けていました。
Y1は、X1・X2に対し、仕入代金や借入金の支払いのため、昭和48年3月以降に約束手形を振り出し、または為替手形の支払引受を行いました。しかし、同年8月には入金を予定していた大口の売掛金の回収が不可能となり、Y2からのつなぎの資金の融資も見限られ、A社は同月21日、倒産しました。
A社の倒産によって、X1は228万円、X2は267万円がそれぞれ取立不能となりました。

Xらは、Y1については任務懈怠、Y2については監視義務違反を理由に、商法旧266条ノ3に基づき、損害賠償を求めました。

判旨

第1審は、Y1の責任は肯定しましたが、Y2についてはその責任を否定しました。控訴審は、Y1・Y2ともに、重大な過失による任務懈怠があったとして、商法旧266条ノ3第1項に基づく損害賠償責任を肯定しました。

控訴審において、Y2の責任が肯定されたポイント

まず、Y2は、対外的には自己の信用がA社の信用に結びついていることを認識していました。また、A社は、本件手形振出し当時、経済不況の影響で工事の受注が大きく減少し、従業員への給料の支払いも難しい状況にあったところ、Y2はA社に資金を融通する過程でこのようなA社の財務状態について知らされていたはずでした。

それにもかかわらず、Y2はA社の経営をY2に任せきりにし、その結果、Y1による本件手形振出しを看過し、防止できませんでした。
控訴審は、「Y2は、A社の代表取締役として取締役であるY1に会社の業務一切を任せていたものとはいえ、A社の営業資金や手形決済資金の面倒を見ていたもので、資金の融通をするに当ってY1からA社の経営の実情の報告を何回かにわたり受けていたものと推認され、また対外的には自己の信用がA社の信用につながっていることを承知していたものと認められるから、単なる名目上の代表取締役であるとはいい難いうえ、およそA社の代表取締役に就任すること自体を承諾し、かつその登記を経ていたものである以上、事実上同会社の経営にあまり関与していなかったとしても第三者に対してその実質的内部関係を主張して代表取締役の責任を免れることは許されない。

結局、Y2は、Y1にA社の業務の一切を任せきりにし、その業務執行になんら意を用いないで、ついには取締役Y1の……任務懈怠を看過するに至ったものであるから、自らも商法266条ノ3によりY1と同一内容の損害賠償責任を負う。」として、Y2の責任を肯定しました。

コメント

本判決は、
①Y2がA社に対して資金を融通する過程でA社の財務状態は知らされていたはずであり、また自己の信用がA社の対外的信用につながることをY2も認識していたことから、Y2が単なる名目的な代表取締役ではないとし、加えて、
②代表取締役である以上、会社の業務にあまり関与していないことは免責の理由とはならないと判示しました。一般に代表取締役は会社の業務全般にわたり意を用いる義務を負うと解されていることからすると、②の判示の通り、名目上の代表取締役であるからといって容易に責任を免れることは難しいでしょう。

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ネクスパート法律事務所