倒産会社の代表取締役の業務執行に対する平取締役の監視義務違反につき、重過失が認められないとして、商法旧266条ノ3に基づく損害賠償責任が否定されたケース

事実関係

A社は、創業から昭和46年11月に倒産するに至るまで、代表取締役Bは一人で経営方針を決め、Bが独断専行で経営を行っていた、いわゆる「ワンマン会社」でした。

Yは、昭和45年8月、A社において取締役の員数をそろえる必要があるとして、Bからの頼みを断り切れずにA社取締役に就任しました。

Yの学歴は尋常高等小学校卒業までであり、その後、銀行から融資を受けたり小切手取引をしたりした経験はなく、帳簿に関する知識も持ち合わせていませんでした。

Bは、A社が倒産寸前の状態にあるにもかかわらず、経理部長のCと共同して、虚偽の決算書を示してA社の経営状態が良好であるかのように欺いた上、融通手形を商業手形であると思い込ませてX銀行から手形の割引を受けました。

Xは、この手形の支払いがなされなかったため、割引金相当額の損害を被ったとして、Yに対し、商法旧266条ノ3第1項に基づき損害賠償を請求しました。原審がYの責任を認めたことから、Yが控訴しました。

判旨

裁判所は、YはBに対する監視義務を行うについて軽過失はあったにしても重過失があったと認めるのは困難であるとして、商法旧266条ノ3第1項前段の規定に基づく損害賠償責任を否定しました。

同項後段の責任についても、Yは計算書類の作成に全く関与していないことから、これを否定しました。

Yの重過失が否定されたポイント

Yは、Bから員数合わせのため頼まれて取締役に就任し、その後も給与面での待遇に変わりはなく、製造部長としてもっぱらBの指示通りに業務を遂行していました。

A社の経営状態、経理面について取締役会が開かれたことはなく、また、YはBまたはCから相談を受けたことも、経理内容を聞かされたことも、決算期に会計帳簿や財務諸表に目を通したこともありませんでした。

Bらの不正な業務執行の発見は容易ではなく、Yが漫然と看過したわけでもありませんでした。

A社ではBのみが実権を掌握し、Bの独断専行による経営が行われていたのであり、Cを除き、Yのような名目的な取締役が取締役会の開催を要求したとしてもその開催は困難でした。

また、BとCが共同して不正行為をしている以上、Yのみで取締役会の監視権を適正に行使することは極めて困難でした。

以上のことから、裁判所は、Yの監視義務違反について重過失を否定しました。

コメント

本判決は、A社におけるBの立場や、Yの名目的取締役という地位を考慮した上で、Yが取締役会の開催を要求するなどしたとしても、その開催は困難であって、不正な銀行取引の実情を発見し、新たな取引における不正を阻止することはできません。

さらに、Bらが共同して不法行為を行っている以上、Yだけで監視を適正に行うことは困難であり、防止する手段もなかったと判示しています。

この点については、功を奏するかどうかは別として、少なくとも、実際に取締役会を招集しようとしたり、経営状況を調査しようとしたりする行動が求められるべきとの異論もみられるところです。

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ネクスパート法律事務所