偽造手形の受取人である株式会社の取締役に、会社に対し当該手形呈示を控えさせなかったという任務懈怠責任が認められたケース

事実関係

A株式会社は、機械工具、車両部品の製造販売を目的しており、Bが代表取締役を務めていました。Bは、昭和40年7月末頃、その従業員を介して、取引先企業であるX社の経理一切を取り仕切っている者としてCを紹介され、同人より手形の交換を申し込まれて、これを承諾しました。A社はCからX社の振出しにかかる約束手形数通を受け取るとともに、A社を振出人としてCが代表取締役を務めるD社を受取人とする同額の約束手形をCに交付しました。

ところが、上記X社の振出しにかかる約束手形は、何ら権限のないCがその夫であるX社代表取締役Eの印鑑を無断で持ち出し使用して偽造したものでした(A社には民法110条・112条の正当事由がなく、X社は振出人としての責任を負わないことが認定されています)。Yは、A社がCから上記偽造手形の交付を受けた直後の時期に、Bの懇請によりA社取締役に就任し、金融面担当として業務に従事するようになりました。昭和40年11月26日、BとYはX社を訪れ、Eに対し満期に手形金を支払ってほしい旨を申し入れましたが、Eは偽造された手形であることを理由にこれを拒絶しました。そこで、BはA社代表として、X社振出しの約束手形をその満期に手形交換所において提示しました。

そのため、X社は取引停止処分を免れるため上記手形金相当額を支払場所銀行に交付することを余儀なくされ、結果として利息相当額21万円あまりの損害を受けました。X社は、Yに対し、商法旧266条ノ3第1項による損害賠償を請求しました。

判旨

裁判所は、Yの重過失による任務懈怠を認め、X社の請求を認容しました。ただし、過失相殺として6万円を減額しました。

Yの任務懈怠が肯定されたポイント

YはBの指示により調査のためX社を訪れたことがありました。そのときに知り得た事実(EとCが夫婦不仲で別居中であったこと等)や、交換手形の受取人がD社であることからすると、Yとしては、本件各約束手形はCにより偽造されたのではないかと疑うべき十分な理由がありました。
それにもかかわらず、Yは、偽造手形であると主張するEの言辞について、なんらこれを打ち消すに足るような特段の資料がないにもかかわらず信用に値しないものと安易に断定しました。

以上のことから、裁判所は、「Yは、当時A社の取締役であってその金融面の業務を担当していた……から、A社の金融担当の取締役として代表取締役であるBに進言するなどして、本件……の各手形の提示を差し控えさせるべき措置をとるべき義務があり、Yは重大な過失によって右義務を怠った」として、Yの任務懈怠を肯定しました。

コメント

Yは金融担当者としてA社取締役に就任したのであり、その立場からすると、Cによる手形偽造が疑われる十分な理由があり、またEにも面会して偽造手形であるという主張を直接に聞いている本件事案の下では、Bによる本件手形の呈示を阻止すべき法的義務があったという結論は妥当といえるでしょう。

しかし、そのことがA社に対する関係で取締役としての任務懈怠になるという法的構成には疑問がないわけではなく、むしろ、X社に対する不法行為を請求原因とすべきではなかったかと思われます。

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ネクスパート法律事務所