倒産状態の下で約束手形を振り出した代表取締役に対する、平取締役の監視義務違反が否定されたケース

事実関係

A株式会社は、札幌市中央卸売市場において、水産物の仲介業を営み、水産物およびその加工品の販売を目的とする資本金1,000万円の会社であり、代表取締役Y1の一族が経営するいわゆる「同族会社」でした。

昭和49年2月から4月にかけて、Bは、A社名義で額面額合計920万円の約束手形5通をXに対して振り出しました。しかし、A社は、同年4月23日、手形不渡りを出し、総額5憶円以上の負債を残して倒産しました。

A社はすでに、昭和48年3月に終了する事業年度から赤字経営が続いており、Xに約束手形を振り出した頃は、慢性的な債務超過の状態にありました。

さらに、資金管理を実質的に放棄していたものとみられ、間もない時期に倒産した事実からみると、およそ手形金支払いの見込みはありませんでした。

そこで、Xは、手形金相当額の損害を被ったと主張して、代表取締役Y1およびY1の妻で取締役のY2に対して、損害賠償を請求しました。

判旨

裁判所は、「現行商法上代表権を有しない取締役は、取締役会の構成員として同会を通じて代表取締役の業務執行に対する監督の義務を負うだけでなく、取締役会に上程されない事項についても、自ら同会に付議するなどして代表取締役を監視する義務があるというべきである。

しかし、代表取締役の業務すべてについてその監督権限を行使することは事実上不可能であるから、代表取締役の任務違反行為のすべてにつき、取締役が監視義務違背の責任を問われるわけではなく、取締役会に上程されない事項については代表取締役の業務活動の内容を知ることが可能である等の特段の事情がある場合に限って認められると解すべきである。」

との一般論を述べた上で、代表取締役Y1について善管注意義務・忠実義務違反を肯定し責任を認め、取締役Y2については監視義務違反を否定しました。

Y2の監視義務違反が否定されたポイント

Y2は、昭和48年6、7月頃、取締役の数が不足したためA社取締役に就任しました。しかし、Y2の取締役就任後、A社で取締役会が開かれたことはありませんでした。

また、Y2はA社業務に関わったことはなく、本件約束手形の振出しにも関与していませんでした。

以上のことから、裁判所は、Y2の監視義務違反を否定しました。

コメント

本判決は、取締役会に上程されない事項については、取締役が代表取締役の業務活動を知ることが可能である等特段の事情がある場合に限って、監視義務違反が問われるという一般論を述べています。

これを文字通りにとらえると、平取締役の代表取締役に対する監視義務を認めた最高裁判例の立場と明らかに矛盾するものであり、妥当とはいえません。

ただし、事案の解決としては、Y1とY2の夫婦が同一会計であれば、夫Y1の責任を認めることで充分であったのかもしれません。

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ネクスパート法律事務所