不渡りとなった手形の振り出しを放置した代表取締役および平取締役の任務懈怠が認められたケース

事実関係

A株式会社は昭和29年3月に設立され、オルゴール取付製品・宝石箱・化粧品等の製造販売を営んでいましたが、昭和42年頃から運転資金の不足を生じ、昭和43年にはすでに不足額を融通手形の割引きや借入金によって填補していました。昭和43年11月2日、当時A社の代表取締役であったBの懇請により、A社を援助するため主力取引金融機関である信用組合から非常勤取締役2名を迎えることになり、Y1はBとともにA社の共同代表取締役に、Y2は取締役に就任しました。

しかしながら、A社は昭和44年1月から毎月赤字を出して、同年6月時点での累積赤字は約1,470万円におよび、その経営は自転車操業の状態でした。A社の資金調達方法は、その債務弁済・運営資金等の必要がある都度、経理係員Dの依頼により、資金調達を分担したCがA社振出しの受取人欄白地の手形交付を受け、受取人欄に自己の氏名を補充し裏書人欄に署名捺印をした上で、手形割引業者に対しそれらの手形はいずれもA社のCに対する商業手形であると偽って割引を受ける、というものでした。Y1およびY2は、非常勤取締役であることもあり、当初はこのようなA社の資金調達方法を明確に認識はしていませんでした。昭和44年3月10日から同年7月15日までの間に、A社は約束手形合計22通をCに振り出し、手形割引によりこれらの約束手形のうち9通をX1が、うち13通をX2が所持するに至りました。

その後、A社は昭和44年7月末に支払不能に陥り手形不渡りによる処分を受けて倒産したため、X1およびX2は各自が所持する手形の支払いを受けられなくなりました。

そこで、X1らは、その被った損害は、Y1およびY2らがA社の代表取締役ないしは取締役としての注意義務を怠った重大な過失によるものであるとして、商法旧266条ノ3に基づき、Y1らに対して損害賠償を請求しました。

判旨

裁判所は、Y1およびY2の取締役としての任務懈怠を肯定し、損害賠償責任を認めました。

Y1、Y2の任務懈怠が肯定されたポイント

Y1、Y2は非常勤取締役でしたが、取締役会に出席してA社の資金繰りが極めて悪いことには気が付いていました。
ところが、Y1らはBの将来の事業計画に対する説明と同人の事業能力を信頼し、いずれA社の営業成績も好転し、資金繰りの困窮も解消されるものと軽信しました。また、Y1らはBにA社の経営のすべてを任せきりにして、取締役会に提出された資料以外の同社の経理に関する帳簿等の書類を閲覧検討するなど同社の経理状況を正確に把握するための努力を一切していませんでした。

Y1らは、BおよびCの資金調達方法についても特に関心を示さず、昭和44年6月の取締役会に資金繰表が提出されて、ようやくこれを明確に知るに至っています。Y1らは、Cの資金捻出方法を知った時点でA社の経営についての監視を強めるべきでしたが、Bから代表印および手形帳を取り上げたのみで、その後も漫然とC、Dに対し会社の運営および経理事務の一切を任せ、特に手形の振出しや割引きを禁じていませんでした。

以上のことから、裁判所は、Y1らの任務懈怠を肯定しました。

コメント

本件では、非常勤取締役であるY1、Y2について、支払見込みのない約束手形の振出しに対する監視義務違反の有無が問われました。
本判決が出された当時すでに、代表取締役が他の代表取締役に会社の業務の一切を任せきりにし他の代表取締役の不正行為・任務懈怠を看過するに至った場合に監視義務違反を認めた判例(他の代表取締役に業務を任せきりにしていた代表取締役の監視義務違反が認められたケース)や、平取締役が代表取締役に会社の業務を任せきりにし監視を怠った場合に監視義務違反を認めた判例(代表取締役の業務に対する平取締役の監視義務違反が認められたケース)がありました。本判決は、特に監視義務についての一般論は述べていませんが、上記の最高裁判例の立場に従ったものとみられます。

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ネクスパート法律事務所