他の代表取締役に業務を任せきりにしていた代表取締役の監視義務違反が認められたケース

事実関係

A社は工器具類の製造販売を営む株式会社であり、Yが代表取締役社長、Bが代表取締役専務を務めていました。

X社は昭和27年3月4日頃、Bから鋼材を買い受けたい旨の申込みを受け、鋼材合計16トンをA社に引き渡しました。A社はその代金支払いの方法として、手形金額72万円、振出人A社代表取締役社長Yとする本件約束手形を振り出してX社に交付しました。

ところが、X社が満期日に支払呈示を行ったところ、支払いを拒絶されてしまいました。その後、A社は相次いで手形を不渡りとし、遅くとも昭和27年4月中には店舗を閉鎖して整理に入らざるを得なくなりました。

手形金額の支払いを受けられなくなったX社は、Yに対して、Bとの共同不法行為、Bに対する代理監督者責任、Bに対する監視義務違反を主張して損害賠償を求めました。

判旨

第一審は、Yの共同不法行為に基づく責任と代理監督者責任についてはいずれも否定しましたが、Bに対するYの監視義務違反を認めました。

ただし、X社が本件取引に当たってA社の信用調査等を行っていないことを理由として、過失相殺を認めました。

最高裁は、「株式会社の代表取締役は……、定款に別段の定めがないかぎり、自己と他の代表取締役との間に直接指揮監督の関係はない。

しかし、もともと、代表取締役は、対外的に会社を代表し、体内的に業務全般の執行を担当する職務権限を有する機関であるから、善良な管理者の注意をもつて会社のために忠実のその職務を執行し、ひろく会社業務の全般にわたつて意を用いるべき義務を負うものであることはいうまでもない。

したがつて、少なくとも、代表取締役が、他の代表取締役その他の者に会社業務の一切を任せきりとし、その業務執行に何等意を用いることなく、ついにはそれらの者の不正行為ないし任務懈怠を看過するに至るような場合には、自らもまた悪意または重大な過失により任務を怠つたものと解するのが相当である。」

として、Yの監視義務違反を肯定し、第一審の結論を維持しました。

Yの監視義務違反が肯定されたポイント

本件のYは、A社の事業について経験もなく関心も薄かったにもかかわらず、A社の信用力を高めるために友人に請われて代表取締役への就任を承諾した、いわゆる名目的代表取締役でした。

Yは、当時弁護士・獣医師・県会議員としての業務が多忙であり、昭和27年4月20日に代表取締役を辞任するまでの間、数回A社に立ち寄っただけで、A社の業務一切をBに任せきりにしていました。

また、YはBに対し、Y名義で金額10万円以上の手形や小切手を発行する場合はYの了解を得るよう口約した上で自己名義の印章を預けていました。

しかし、この口約は一度も守られず、Yは県議会で自身の名義の約束手形が不渡りになっていることを非難されてようやくA社の事務職員を問いただし、不渡りの事実を知りました。

結局、Yは、A社の業務一切をBに任せきりにしたことにより、自分の知らない間にBが本件取引を行うという事態を招いたといえます。

以上のことから、裁判所は、Yの監視義務違反を肯定しました。

コメント

本件のYは、A社の信用力を高めるために、名前だけでも良いからと懇請されて代表取締役に就任していますが、このような事情は第1審から最高裁に至るまで、Yの責任を否定する要素としては考慮されていません。

むしろ本件では、YがA社の経営をBに任せきりにして自らはまったく関与していなかったことが強く非難されており、とくに最高裁は、このような場合は代表取締役の悪意・重過失となるとしています。

会社外の事業等が多忙であることは、およそ代表取締役としての業務執行をおろそかにする理由とはなりませんから、妥当な判断といえるでしょう。

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ネクスパート法律事務所