代表取締役による偽造手形の振り出しについて、他の名目的代表取締役の監視義務違反が認められたケース

事実関係

A社は、C社の製品の販売を主たる目的として設立された会社であり、YとBが代表取締役を務めています。

もっとも、Yは親しい間柄にあったC社社長のDから名義だけを貸すように頼まれてA社の代表取締役となった、いわゆる名目的代表取締役でした。

A社が、金融業者であるX社に対して、C社が振り出した手形金額70万円とする約束手形の割引を依頼したところ、X社は、A社が保証のために代表者の個人保証のある同額の約束手形を差し入れるならば、割引に応じると返答しました。

そこでBは、振出人欄にA社代表取締役YおよびY個人の記名押印をなして、手形金額70万円とする本件手形を作成し、X社に交付しました。しかし、Yは本件手形の振り出しを了解していませんでした。

X社はYに対して手形金額の支払いを求めて本件訴訟を提起し、控訴審では手形上の請求に加えて、予備的請求として商法旧266条ノ3に基づく損害賠償を求めました。

判旨

裁判所は、本件手形については、BによるY名義部分の偽造を認め、振り出しを無効として、Xの主位的請求を退けました。

しかし、予備的請求については、Yが代表取締役の業務を遂行していれば、Bによる手形金の詐取を未然に防ぐことができたとして、X社に対する賠償を命じました。

Yの監視義務違反が肯定されたポイント

Yは、親しい間柄にあったC社社長のDから名義だけを貸すように頼まれてA社の代表取締役となり、その登記を経ていました。

しかし、実際にはA社の運営の全権はDが掌握しており、Yは週に1日程度名目的に出社はしていたものの、会社の経営管理には一切関与せず、Bにその業務処理の一切を委ねていました。

以上のことから、裁判所は、「代表取締役たる者は会社に対し善良なる管理者の注意をもつて会社の業務の執行にあたるべく、他の取締役の業務の執行行為についても注意を怠らず、職務違反の不当な事務処理はこれを未然に防止して会社の利益をはかるべき義務を負っているから、前認定のごとくYが業務の執行一切を他の代表取締役Bに委ね而も自らは何等これを顧みなかつたことは代表取締役としてその職務を行うについて重大な過失があつたと謂うべきである。」として、Yの監視義務違反を肯定しました。

コメント

本件では、いわゆる名目的代表取締役であるYの他の代表取締役に対する監視義務違反が問題となりました。

この点につき、本判決は、まず、代表取締役は会社に対する善管注意義務の一環として、他の取締役の業務執行に対する注意義務を負うと述べています。

そして、名目的な代表取締役であってもこの義務を負うことに変わりはなく、他の代表取締役に業務執行の一切を任せきりにすることは、代表取締役としての重過失にあたると判示しています。

本件のYは、代表取締役の就任を承諾して登記も経ていますが、その後A社の経営には一切関与していません。

加えて、A社では従来、Yの許諾を得ずに、Bやその部下職員がY名義の印章等を用いてA社社長名義で手形や小切手等を振り出していたとの事情もあったようです。

このような状況からすれば、Yの重過失を認めた裁判所の判断は妥当というべきでしょう。

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ネクスパート法律事務所