取締役の監視に重大な過失が無いとして賠償責任が否定されたケース(他の取締役による詐欺)

事実関係

貿易会社であるA社では、代表取締役Y1のほか、Y2~Y7が取締役を務めていました。

A社はB社に対する生糸の輸出取引に際して、X銀行からいわゆる貿易手形の割引による融資を受けることにしました(本件手形割引)。

本件手形割引には、内国メーカー等との売買約定書、代金仕切書および代金領収書を、貿易手形となるべき約束手形に添付して提出する必要がありました(以下、売買約定書・代金仕切書、代金領収書をあわせて「本件約定書等」)。

これは、A社が輸出する生糸の仕入契約を終えて代金を完済していることを確認するためです。

昭和26年10月頃、A社は手形金額合計8,710万円とする約束手形5通(本件手形)を振り出し、本件約定書等を添付してX銀行に交付しました。

X銀行は提出された書類を確認した上で、A社に対して貿易手形の割引による融資として合計8,655万4,444円を交付しました。

ところが、本件手形割引の当時、A社は約1憶円の債務超過に陥っており、あらかじめ輸出用の生糸を買い付けるだけの資金繰りができない状況にありました。

そして、本件約定書等は、X銀行から融資金を詐取するために、Y2とY3が経理課長C等に指示し、生糸の仕入れ先であるY8社と共謀して作成させた虚偽の書類でした。

この事実は、昭和26年11月に判明しましたが、同時期にA社は支払不能となり、X銀行は不渡りとなった本件手形の買戻しをすることになりました。

そこでX銀行は、①主位的に、Y1~Y7およびY8社のX銀行に対する共同不法行為を主張し、②予備的に、Y1~Y7に対して、Cの代理監督者としての義務違反や、A社取締役としての善管注意義務違反を主張して、8,710万円の損害賠償を求めました。

判旨

裁判所は、Y2・Y3らはCと共同してX銀行に対する詐欺を行い、Y8社らはY2らの詐欺を幇助したとして、X銀行に対する損害賠償責任を認めました。

一方で、他の被告についてはY2らの詐欺行為に加担した証拠がないとして、共同不法行為に関するX銀行の主張を退けました。また、代表取締役であるY1については、Cに対する監督義務違反を認めました。

しかし、Y4~Y7については、いずれもCを監督する立場になく、また取締役として欠ける部分はあるものの、悪意や重過失はないとして、監督義務、善管注意義務に関するX銀行の主張を退けました。

Y4~Y7の責任が否定されたポイント

Y4らは、A社の融資面の窮状を貿易手形の割引融資によって打開することが当時の最大の懸案であったことは認識していました。

しかし、取締役会などでその具体的な方法が審議された証拠はなく、Y2らの詐欺についてY4らの共同の認識や通謀があったとはいえませんでした。

また、A社の職務分担制度からすると、平取締役であるY4らが、Y2・Y3の担当職務に口出しする余地はありませんでした。

以上のことから、裁判所は、Y4~Y7について、「A社の取締役たる者の忠実義務を怠つたというそしりは免れないとしても、……これをもつて商法第266条ノ3に規定する「悪意又は重大な過失」にはあたらない」として、X銀行に対する損害賠償責任を否定しました。

コメント

本判決は、「監視義務」という言葉こそ用いていないものの、Y4~Y7については監視義務を念頭に置いた判断を下したものと思われます。

Y4らの悪意・重過失を否定した本判決の判断には、社内における職制の区別が厳密になされていたという時代背景も影響しているでしょう。

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ネクスパート法律事務所